写真家 三井昌志「たびそら」 アジア旅行記 フォトギャラリー 通信販売 写真家・三井昌志プロフィール ブログ「旅空日記」

 路地裏をあてもなく歩き回り、出会った人々の表情を撮る。それが僕の旅のスタイルだ。口癖は「I'm not sure」。どこへ行くのか決めていないし、今日の予定なんかない。この街に来た理由さえよくわからない。
 たったひとつ確かなこと。それは僕がアジアの人々――とりわけ美しく澄んだ瞳を持った少女達――の生き生きとした姿に、どうしようもなく惹かれているという事実だった。


Chapter.1 物売り達の日常  | 1 | 2 | 3 | 4 |
 上半身裸で痩せっぽちの女の子が、マジシャンがシルクハットから沢山の国旗を引っ張り出すみたいに、次から次へといろんな笑顔を見せてくれると、思わずこちらの顔もほころんでしまった。笑顔のデパート。そんな形容詞がぴったりだな、と僕は思った。

Chapter.2 カラオケ大会の喧噪  | 1 | 2 |
 物売りの少女リナ達に誘われて、村祭りに出かけた。年に一度の仏教儀式というのが祭りの名目なのだが、夜になると村の若者が企画する娯楽行事に様変わりする。今年の出し物はカラオケ大会だという。カンボジア人は歌って踊るのが何よりも好きなのだ。

Chapter.3 どこでもない場所を行く  | 1 | 2 | 3 |
 少女は分数の足し算の授業を窓越しに覗き込んでいたが、その内容を理解しているのかどうかはわからなかった。唇を真一文字に結び、壁にもたれかかったままの姿勢で、じっと黒板を見つめている。そんな少女の横顔には静かに心を打つものがあった。



Chapter.1 インモァンとの再会  | 1 |
 3年という歳月は、一人の少女をこれほど大きく変えてしまうものなのか……。僕は10歳のインモァンを写した写真と、目の前にいる彼女とを見比べながら、軽くため息をついた。彼女は一匹の幼虫がサナギの期間を経て美しい羽根を持つ蝶に生まれ変わるように、見事な変身を遂げていたのだった。

Chapter.2 ヘイタイサンの思い出  | 1 | 2 | 3 | ←CD-ROMで公開中
「その兵隊さんは、無事に日本に帰ったんでしょうか?」と僕は訊ねた。
「わからない。私はわからない。日本の兵隊さん、たくさん死にました。あなたみたいに、若い兵隊さん、たくさん死にました。戦争、よくないです。よくないです」
 老人はそう言うと、悲しそうに首を振った。

Chapter.3 それぞれの未知なるもの  | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | ←CD-ROMで公開中
「このトカゲは狩りの途中に森の中で捕まえてきたものらしいよ」とソーは言った。「トカゲは普通に食べるんだけど、家の天井なんかに張り付いているヤモリは食べないんだって」
「トカゲとヤモリの違いは何なんだ?」と僕は訊ねた。

Chapter.4 ある僧侶の死  | 1 | 2 | 3 | 4 | ←CD-ROMで公開中
 僕には彼が何を言っているのか、すぐに理解することができなかった。彼が死んだ?
「ウィザヤは死んだ。それは確かなんですか?」
 僕はひとつひとつの単語をゆっくり発音して質問し直した。



Chapter.1 ダッカへの長い道  | 1 | 2 |  ←CD-ROMで公開中
 もともと望みが薄いことは承知の上で、僕はダッカの空港に降り立った。バングラデシュへの入国にはビザが必要不可欠で、それは日本か第三国のバングラデシュ大使館で取っておくべきものなのだが、僕はそれを持っていなかったのである。

Chapter.2 スラム街のジャーナラ  | 1 | 2 | 3 | ←CD-ROMで公開中
 ジャーナラの家族は最底辺の環境にいながらも、毎日を精一杯生きている。そして6人の子供のうちの一人は、生き生きとした笑顔で僕の心を打った。彼女は汚点などでは決してない。僕にとってはダッカという街の中で、もっとも輝いているもののひとつだったのだ。

Chapter.3 「世界一汚い街」の変貌  | 1 | 2 | 3 | ←CD-ROMで公開中
 ダッカの空気が三年前よりも綺麗になっていることを確信したのは、ダッカ滞在二日目だった。街で知り合った雑貨屋の店主に何気なく「ダッカの空気が綺麗になっている気がするんだけど」と話を振ると、彼がその理由を教えてくれたのだ。

Chapter.4 バングラデシュ農村の旅  | 1 | 2 | 3 | ←CD-ROMで公開中
 村人の視線が自分に集中する頃合いを見計らって、象は近くの雑貨屋の主人に向かって長い鼻をするすると伸ばした。そして、まるで小さな子供が「お小遣いちょうだい」と手の平を差し出すように、鼻の先を主人の顔の前に差し出した。



Chapter.1 「まっすぐな瞳」を探して  | 1 | 2 | 3 | 4 |
 僕は彼女について何も知らなかった。年齢も名前も家族構成もわからない。ただ数枚の写真が手元に残っただけだった。あの子は毎日どのような生活を送っているのだろう。何を食べ、何を学び、何を幸せに感じて生きているのだろう。それを確かめるために、僕は再びネパールを訪れることにした。

Chapter.2 手榴弾の重み  | 1 | 2 | 3 | 4 |
 マオイストの青年バサンタが持っていた小さなショルダーポーチには、マオイストの指導者が書いたという分厚い本と、手製の手榴弾が入っていた。
「自分の身を守るためにいつもこれを持っているんだ」と彼は言う。「今ここで爆発させれば、君も僕もそこにいる水牛もみんな死んでしまうだろうな」

Chapter.3 厳しい自然とささやかな暮らし  | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
 棚田は、人が自然に立ち向かい、大きく作り変えたものではなく、あまり豊かではない土地から食べ物を得るためのささやかな試みの集積である。だからこそ、棚田には独特の美しさがあるのだと思う。それは削げる部分を全て削ぎ落とした後に残るシンプルな美しさだった。



Chapter.1 青空と涙  | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
 何をおいても強調しておかなければいけないのは、アフガニスタンがとても美しい国であるということだ。今も残る内戦の傷跡や、タリバン政権下で抑圧されていた女性の象徴であるブルカや、温かく親切な人々について伝える前に、まずこの国の美しさについて書こうと思う。

Chapter.2 長い一日  | 1 | 2 | 3 | ←CD-ROMで公開中
 僕は敵意がないことを表すために、両手を肩の高さに上げた。笑顔を作ろうと思ったけれど、上手く笑えなかった。男は銃口を僕の鼻先二十センチにまで近づけた。銃身は長くて黒々としている。心臓が大きく波打つのが聞こえた。

Chapter.3 マザーリシャリフの男  | 1 | 2 | 3 | ←CD-ROMで公開中
 今のマザーリシャリフには、戦争の傷跡はほとんど残っていない。建物は修復され、民族同士の亀裂も表面上は埋まり、人々は日常生活を淡々と送っているように見える。しかし、その内側に破壊と殺戮の記憶が生々しく刻み込まれているのもまた事実だった。

Chapter.4 トヨタのお陰  | 1 | 2 | 3 | 4 | ←CD-ROMで公開中
「この町、危険。たいへん、危険。あんた、警察署、行く」
「わからないな。何が危険なんだ?」
「あんた、警察署、行く。ポリス、話する」と店主は言った。それ以上の詳しいことは、彼のボキャブラリーでは説明できないようだった。



Chapter.1 幸せなピクニック  | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
 こんなに幸せそうな集団は、今までに見たことがなかった。どの顔も喜びに満ちていた。どの腕も目一杯振られていた。どの足も地面を力強く蹴っていた。美味しいものを食べ、青空の下で遊び、大声で歌う。それだけで人は幸せになれるのだ。



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