マオイストの青年バサンタが持っていたのは小さなショルダーポーチひとつだけだった。その中にはマオイストの指導者が書いたという分厚い本と、手製の手榴弾が入っていた。
「僕は戦闘員ではないけれど、政府軍がいつ襲ってくるかわからないからね。自分の身を守るためにいつもこれを持っているんだ。もちろん大きな破壊力がある。今ここで爆発させれば、君も僕もそこにいる水牛もみんな死んでしまうだろうな」

 彼はポーチの中から手榴弾を取り出して、テニスボールでも扱うような気軽さでひょいと僕に手渡した。それはキウイフルーツほどの大きさで、小さいながらもずっしりとした重みがあった。水道管らしき金属製の管を繋ぎ合わせて、緑色のビニールテープを貼り付けただけのシンプルな爆弾である。バサンタと一緒に行動している戦闘員の男(結局彼は一言も話さなかった)は手榴弾二つの他に、刃渡り十五センチほどの短剣を腰に差していた。戦闘時にはマシンガンも携帯するという。

 しかし、バサンタは「命懸けの武装集団」というテロリストのイメージとはかけ離れた男だった。最初の口振りこそ高圧的でシリアスだったが、しばらくすると笑顔を交えながら話をするようになった。たぶん最初は彼の方も僕の存在に戸惑い、緊張していたのだと思う。このような取り立てて特徴のないトレッキングルートからも外れた村で、外国人に出くわすなんて思ってもみないことだったのだろう。

 僕が見る限り、バサンタはごく普通のネパールの若者だった。どちらかというと気が弱そうにも見えた。彼が「我々を助けてはもらえないだろうか?」と遠慮がちに寄付を求めてきたことがあったのだが、僕が即座に「ノー」と答えると、「アイム・ソーリー。気にしないでもらいたい」と言ってすぐに諦めてくれた。通行料という名目で半ば強制的に外国人からお金を取るマオイストもいるらしいのだが、バサンタにはそういう押しの強さはなかった。

 たぶん断られるだろうと思いつつ、「君の写真を撮ってもいいだろうか?」と訊ねてみたときも、彼はかなり考え込んだ末に「うーん、それはダメなんだ。アイム・ソーリー」と申し訳なさそうに言った。撮られた写真が政府軍の手に渡れば大変なことになるわけだから、彼が断るのはむしろ当然なのだが、それでも「アイム・ソーリー」と謝ってしまうところに彼の気の弱さと人の良さが表れているような気がした。

 彼はネパール西部にあるという故郷の村のことを懐かしそうに話した。
「とても貧しい村だけどね、収穫の頃には田んぼの稲穂が黄金色に輝くんだ。美しい眺めだよ。でもこの三年間故郷には一度も帰っていないし、この戦いが終わるまで帰ることはないだろうな」
(続く...)

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