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マオイストと政府軍との戦いが今後どのように決着するのかはわからない。しかしマオイストが単なる少数のテロリストではなく山岳部を広範囲に渡って勢力下に収めている武装ゲリラである以上、この混乱が当面は続くのではないかと思われる。
ひとつはっきりしているのは、争いが長引けば長引くほどネパール経済が停滞するということだ。これといった輸出品のないネパールにとって観光収入は重要な外貨獲得源なのだが、「テロリストが跋扈する危険な国」というマイナスイメージによって、外国人観光客の数は二年前の約半分にまで激減しているのだ。
都市部では大規模なゼネストも頻発していて、それが経済の混乱に拍車をかけている。また地方の村々では、道路や電力といった政府主導のインフラの普及がマオイストの妨害を理由にストップしている。マオイストは「農村と都市との貧富の差の解消」を謳い文句に台頭してきたのだが、皮肉なことに彼らの存在自体が貧富の差を拡大する原因になっているのだ。
教育事情も悪化している。マオイストは金持ちしか通えない私立学校の存在を敵視していて、地方にあるハイスクールを次々と閉鎖に追い込んでいるのだ。そのようなマオイスト支配に嫌気がさして、田舎から首都カトマンズに逃げ出す人も続出している。
「ネパールにとって、今はとても暗い時代です」と医者のヤンバハドゥールは悲しそうに言った。「ラジオや新聞はマオイストと政府軍がお互いを何人殺し合ったかというニュースばかりです。分厚い雲によってエベレストの頂が隠されてしまうように。今の私たちには未来が見えないんです」
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| 田植えの終わった棚田を歩く女。雑草を抜き、畔(あぜ)の手入れをしている。 |
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僕とバサンタは道端の石垣に座って一時間ほど話をした。晴天に恵まれた穏やかな午後だった。僕らの目の前を山羊の群れを連れた老婆や、井戸から汲んできた水を運ぶ少女が無言で通り過ぎていった。そのような命のやり取りをする危険とはおよそ対極にある平穏な日常の中で、バサンタの革命の話はとても遠くの国の架空の出来事のように響いた。それは「悪い王様がいい王様に倒され、領民はその後幸せに暮らしました」というような古いおとぎ話のようにリアリティーがなかった。共産主義でも共和制でも王政でも、どんな政治形態になろうとも農村が農村であることに変わりはないし、農民の日常生活が大きく変化することはないだろう。僕にはそのようにしか思えなかった。
しかし、マオイストによる武装闘争と人民革命が古いおとぎ話などではないことは、バサンタの手に握られた手榴弾を見ればわかる。その金属の塊が放つ鈍い光と、ずっしりとした重みはとてもリアルなものだった。何かの拍子でこれが爆発したら、彼も僕も老婆も山羊もこの場にいる全員が一瞬にして吹き飛んでしまうのだ。彼らはその力を使って政府軍と戦っているし、これからもその戦いを続けようとしている。手榴弾の持つ重みは、彼の手の中にあるただ一つの確かなものなのだ。
「マオイストのことをわかってもらえただろうか?」
バサンタは別れ際に僕に訊ねた。
「半分はわかる。けれど半分はわからない」
僕は正直に言った。
「それで十分だ」と彼は言って笑った。「君と話が出来て良かったよ。よい旅を」
彼は右手を差し出し、僕はそれを握り返した。最後に何という言葉をかけるべきなのか迷ったが、結局僕はありきたりのフレーズを口にした。
「グッドラック」
バサンタはにっこりと笑って、森の方へ歩き始めた。
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