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公園をぐるりと一周し終わると、一緒に来ていた生徒の母親達に呼ばれて、昼食をご馳走になった。羊の挽肉をこねたハンバーグ風のものを分厚いパンに挟んで食べるトルコ風サンドイッチは、肉の旨味がぎゅっと濃縮されていて、本当に美味しかった。サンドイッチを三個も頬張り、食後のチャイを飲んで一息ついていると、一人の奥さんが遠慮がちに話しかけてきた。彼女は以前に外国人のいる職場で働いていたことがあるので、英語が話せるのだという。
「ピクニックを楽しんでいますか?」と彼女は僕に訊ねた。
「ええ、もちろんですよ」
僕は頷いた。子供達のしつこさには辟易させられるけれど、楽しいピクニックであることは間違いなかった。
「しかし、どうしてトルコの子供はこんなに元気がいいんでしょうね? 僕はいろんな国を旅してきましたが、こんなに人懐っこくて、元気のいい子供は見たことがないですよ」
「あなたが急に現れたのが、よっぽど嬉しかったんじゃないかしら」と彼女は言った。「それに、トルコ人の親は子供のことが本当に好きなのよ。愛しているの。だから『子供は元気すぎるぐらいがちょうどいい』と考えているのかもしれない」
確かにトルコの子供が、両親に愛されているのは事実だろう。母親だけでなく、父親も子供のことを本当に大切にする。なんたって家族が一番大切だよ、とみんな口を揃える。しかし、我が子を愛しているのはトルコ人だけではない。日本人の親だって気持ちは同じだろう。
「私たちの子供の頃は、きょうだいの数がとても多かったの。私も六人きょうだいだった。でも、今は違うわ。子供は二人か三人というところが多くなったの。その分、子供は親にかまってもらえるのよ」
「だから元気がいい?」
「そうね。でも私にもわからないわ。だって、子供ってああいうものじゃないの?」
結局、僕らがいくら話したところで、トルコキッズの元気のもとは突き止められそうになかった。ひとつだけはっきりとしているのは、このピクニックを心の底から楽しんだという子供達の記憶は、大人になってからも彼らの心を温め励ましてくれるに違いないということだ。そんな彼らのことを、僕はとても羨ましく感じた。
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元気いっぱいの三十人の中で、メリチェだけは例外的におとなしい子供だった。みんながバレーボールやサッカーに夢中になっているときも、彼女はその輪の中に入ろうとはしなかった。友達がいないわけではないのだが、大勢で何かをするよりも、一人でいるのを好んでいるようだった。
英語が話せる奥さんが教えてくれたところによると、メリチェの父親は五年前からサウジアラビアに出稼ぎに行っていて、家に帰ってくることはほとんどないのだという。トルコは「主な輸出品は出稼ぎだ」という話もあるくらい、出稼ぎの盛んな国である。特にドイツには二〇〇万人ものトルコ系住民が住んでいる。近年はヨーロッパだけではなく、サウジアラビアなどの中東の産油国にも出稼ぎ先は広がっているという。
「でも、どうしてメリチェなの?」
奥さんが僕に訊いた。
「確かにメリチェはかわいいわ。でも、他の女の子だって彼女と同じぐらい綺麗だわ。それなのに、どうしてあなたはメリチェを撮ったの?」
彼女が不思議がるのも、もっともなことだった。今のメリチェはクラスの中でも目立たない存在であり、外国人がわざわざ会いに来るような子だとは、到底思えないだろうから。
「僕にとって、三年前のメリチェは特別だったんです」
しばらく考えた後に、僕は言った。三年前のメリチェには、他の子にはない独特の雰囲気があった。普通の子は、カメラを向けられると、はしゃいだり逃げ回ったりするものなのだが、メリチェだけは自然体のままレンズを見つめ返してきたのである。その静かなたたずまいは、彼女がいつも一人でいることと、関係があるのかもしれない。
ひょっとしたら、三年前と同じように、メリチェが路地裏に一人でたたずんでいるときにカメラを向ければ、特別な表情を見せてくれるのかもしれない。ふと、そんな気がした。しかし今となっては、それは確かめようのないことだった。
五時になると、公園の前に迎えのバスがやってきた。僕らはそれに乗って学校に戻った。バスの中でも子供達のテンションが下がることはなく、「トルコ対日本歌合戦」の延長戦が行われた。そんなこんなで、バスが学校に到着した頃には、僕はすっかり疲労困憊していた。僕には小学校の先生なんて半日も勤まらないだろうな、と思った。
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| 学校に戻った子供達は、さすがにぐったりとしていた。 |
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校門の前で、僕はメリチェにお別れを言った。彼女は最後にトルコ式の別れの挨拶をしてくれた。彼女は僕の右手をそっと握り、手の甲に唇をつけた。そして、そのまま僕の手の甲を自分の額に押し当てた。
これは目上の人に対する一般的な挨拶なのだが、そうとわかっていてもドキッとさせられる、素敵な仕草だった。
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