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  たびそら > 旅行記 > インド編(2015)


砂漠に木を植える

 ラジャスタン州北西部に広がるタール砂漠では、ラクダの姿をよく見かけた。

 ラクダは乾燥に強く、重い荷物を積んで長い距離を移動できるので、別名「砂漠の舟」とも呼ばれている。

 長い時間――なんと数ヶ月も――水を飲まなくても生きられるし、砂漠に特有のトゲだらけの葉っぱももりもり食べる。

 ラクダは砂漠という過酷な環境にもっとも適応した動物なのだ。


ラクダ車が砂漠を行く。動きはゆったりとしているが、歩幅が大きいので、見た目よりもスピードはある。

ラクダを使ってトウモロコシの種まきを行う。


 タール砂漠で、木を植えている人々がいた。人々は直径2メートルほどの円の周囲をクワを使って深く掘り、相撲の土俵のように残された土の真ん中に小さな穴を掘って、そこに苗を植えていた。このような特殊な形に土を掘る理由はよくわからなかったが、おそらく乾燥した環境でも木が育ちやすくするための工夫なのだろう。





 女たちはサリーを頭から被り、外からは顔が見えない状態で働いていた。これは「よその男に顔を見られてはいけない」というイスラム風の習慣ではなく、強烈な紫外線と砂埃から肌を守る意味合いが強いようだ。

 たとえ肉体労働の現場であろうとも美しく着飾るのが、ラジャスタン女性の流儀のようだ。外で仕事をするときも、市場に買い物に行くときも、家の中で家事をするときも、いつも色鮮やかな刺繍入りのサリーを身につけているのだ。






ラジャスタンの女性は、家で家事をするときでも色鮮やかなサリーを身につけている。


 片言の英語を話す現場監督によると、この植林は州政府の公共事業として行われているようだ。砂漠といっても、モンスーンの時期にはある程度雨が降る土地なので、乾季の乾燥に耐えられる木を植えれば、しっかりと根を張って大きく育つのだ。植えられた木々はこれ以上の砂漠化を防ぐ「防砂林」としての役割が期待されている。大きく成長した木々の葉は家畜たちのエサにもなるし、枝は村人が煮炊きに使う燃料にもなる。

 以前のタール砂漠は、今よりもずっと緑豊かな土地だったという。それが不毛の砂漠へと変わったのは、急激に人口が増え、育てる家畜の数が増えすぎたためだ。その土地で養える以上の山羊や羊が放牧された結果、わずかに残る緑が喰い尽くされ、木々が枯れ、遮るもののなくなった土地に砂が押し寄せてきて、さらに砂漠化が進行する、という悪循環に陥ったのだ。

 砂漠の拡大を食い止めるには、植樹を中心とした地道な努力が必要だ。もちろん植えた木が育つには長い年月がかかるし、積み重ねた努力が報われるかどうかはわからない。圧倒的な自然の力の前に為す術がなかった、という結果になるかもしれない。

 それでもやらなければいけない。「やる」「やらない」という二択ではない。やるしかないのだ。
 なぜなら、ここは人々の故郷だからだ。この砂漠が彼女たちの生まれた場所であり、この砂漠が彼らの仕事場だからだ。









 穏やかに見えた砂漠に、突如強い風が吹きはじめたのは、午後1時を回った頃だった。
 国道をひた走る僕のバイクにも、砂混じりの強風は容赦なく吹きつけ、手や足がひりひりと痛んだ。

 砂はまるで生き物のように地を這いながらうねり、東の方へ飛び去っていく。
 こうして強い風が吹き抜けるたびに、砂漠は広がっていくのだ。少しずつだが、確実に。


[動画]タール砂漠を吹き抜ける砂嵐


強烈な砂嵐の中、家路を急ぐ女たちがいた。強烈な風が人々の衣服をなびかせ、風景は白く霞んでいる。



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