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■ 旅の質問箱「漠然とした将来への不安」
 

相談になるのかわからないのですが、私は浪人一年目の18歳の女で、今私は大学(観光学部)に通うか、幼稚園の先生になるために短大に進学するか考えています。
色んな地域に行って色んな景色を見たいと思い、観光学部はどうかと考え、写真【風景】にも興味があるので(今は自分のカメラすらないですが)、写真部や旅行サークルに入ろうかと考えていたんですが、今観光系でこの職業に就きたいというのがでてこないので、卒業してどんな職業に就こうかと漠然と不安があります。
それに対して、幼稚園の先生になるために短大に進むというのは、資格が取れて尚且つ将来の職も決まっていて、園児と毎日過ごす日々は仕事内容にも自分は適してるのかなと思ったりします。子育てに専念する為に専業主婦になるのも夢なので、短大に通い、写真部や旅行サークルに入って考えてみて、そしてもし幼稚園の先生になるんだったら休みに海外旅行に行ったり、結婚して家族と旅行したり、写真の方は趣味としておくという道がいいのかなと考えているのですが・・・
どう思いますか? ・・・これは相談なんですかね;


■ 三井の答え

 「これは相談なんですかね」って聞かれても困ってしまいますけど。
 どうしてこのメールを僕に送ってきたのかは、ちょっとわからないのですが(もっと他に適任者がいるようにも思います)、何の因果か僕が受け取ってしまったので、答えてみようと思います。

 最後の「これは相談なんですかね」というつぶやきが、全てを語っているように僕には思えます。
 あなたには「自分がいったい何を相談したいのか」がわからない。それが根本的な問題なのです。
 進学先であるとか、将来の目標であるとか、欲望のありかであるとかが、すべて漠然としていて掴めていないのです。なんかこう全てが「ふわっとした」イメージにしかなっていない。

 「将来はいろんな地域に行きたいなぁ」とぼんやりと思っているから、「それじゃ観光学部はどうだろう」と考えてみる。子供が好きだから幼稚園の先生もいいし、専業主婦への憧れもあるし・・・。
 いや、別にそれでもいいんですよ。そういうことを窓際でぼんやりと考えている人はいくらでもいるだろうし、特に変わった悩みってわけでもありませんし。

 だけどこういう「窓際でぼんやり系」の悩みを、見ず知らずの写真家に相談するというのは、ちょっとどうなんだろうと思ってしまうのです。そんなこと唐突に聞かれても相手は困ってしまうな、という配慮が感じられない。自分のふわっとした悩みを誰もがふわっと受け止めてくれるんだと勘違いしている。それはちょっと問題です。

 もしあなたが自分の将来に対して真剣に悩んでいるのだとしたら、こういうふわっとした状態のままでいられるはずがないのです。「漠然とした不安」を、もっと絞り込んで「現実に私が取りうる選択肢」に変えていかないといけない。
 僕はよく知らないけれども、大学の「観光学部」というのは観光の楽しみ方を教えてくれる学部ではないでしょう? そうではなくて、観光産業をマネージメントできる人材を育成するのが目的なんじゃないですか。そういうところをちゃんと調べてみましたか?

 写真に興味があるんだったら、どうして自分のカメラを持っていないの?
 今どきデジカメなんてものすごく安く買えちゃうでしょう? 散歩がてらに好きなだけ写真を撮ることなんて誰にでもできる。
 なのにそれすらもしないで、「写真は趣味がいいか、仕事にするのがいいか」なんて的外れなことを考えている。

 浪人生なんでしょう?
 だったら一応あなたは「限られた選択肢の中からどれを選び取るのか」という瀬戸際に立たされているはずですね。
 でもあなたのメールからは不思議とその切迫感というか危機感が感じられないのです。「迷っている」って、もうじき受験本番じゃないの?

 でもまぁ、いまさら「マジメに悩め!」なんて言ってもきっと遅いと思うから、別の言い方をしますね。
 観光学部でも、保育士の資格を取りに短大に行くのでもいいから、とにかくどこでもいいから勉強できる空間に自分を入れてしまいなさい。
 漠然とした悩みをいつまでも舌の上で転がしていても、それはずっと漠然とした悩みであり続けるだけだから、その悩みは一時棚上げにして前に進んでみなさいよ。
 それで「あぁ失敗した」と気づくことになるかもしれないし、新しい自分の可能性に出会うことになるかもしれない。でも先のことなんて誰にもわからないんだから、サイコロを振ってでもいいから自分の進む道を決めて、しっかり自分の足で歩いてみなさい。

 そうすればきっとあなたが次の壁にぶち当たったときには、今みたいに「ふんわりした」言葉じゃなくて、もっとソリッドで奥行きのある「自分の言葉」でその悩みを語ることができるはずです。
 健闘を祈ります。




■ 旅の質問箱「カメラについての質問あれこれ」

 カメラについてのご質問がいくつか届いたので、まとめてお答えします。

●質問1 カメラのメンテナンス

昨年、初めてデジタル一眼で旅をしました。一眼ですのでレンズ交換もしたのですが残念なことに受光素子にゴミがついてしまい、それに気が付くまでの写真は駄目になってしまいました。
満充電バッテリーがあったのでミラーアップでき、ブロアーで運良く目立つゴミが飛んでくれたのでその後も写真は撮れたのですが、三井さんはこのようなトラブルを考え旅先に荷物となるメンテナンス用品を持ち歩いているのでしょうか?


◆三井の答え

 デジタル一眼レフカメラの大きな問題点は、センサー部分に小さなゴミや埃がつくことです。これがやっかいでなかなか取れない場合があります。最近のカメラにはゴミ取り機構を備えたものが多いですが、それとて完璧ではありません。
 僕も自分でメンテナンスするためにブロアーを持っていきます。それで取れないような小さなゴミは・・・諦めるしかありませんね。日本に帰国してからメーカーの修理に出して取ってもらうしかありません。
 でも万が一ゴミが残ったとしても、それが写真に撮って大きな問題になるのは絞りを絞った状態で遠くにある被写体を写す場合(例えば青空なんか)なので、人物スナップやポートレートを撮っている限りはあまり問題にはならないのです。だから「細かいことはあまり気にしない」というのが正解だとも言えます。



●質問2 コンパクトか一眼レフか

やはり発展途上国では一眼レフカメラを持ち歩くのは危険度が増すものでしょうか?
来年も旅行に出る予定で、一眼を持っていこうか、それともコンデジを買い旅に出ようか迷っています。


◆三井の答え

 これはどこかで答えたことがあるようにも思いますが、僕はいつも堂々とカメラをぶら下げて街を歩いています。そりゃ確かに目立ちますけども、小さなカメラをポケットに入れてこそこそと隠し撮りのようなことをするのは、あまり好きではないのです。他の人はどうかわかりませんが、僕の場合にはそうやって撮るとあまりいい写真にならないのです。
 幸いなことに、今までカメラを盗まれたことも奪われそうになったこともありません。あまり疑心暗鬼になり過ぎるのも良くないと思いますよ。
 盗まれたっていいじゃないか、というぐらいのおおらかな気持ちで歩いた方が、いい結果が生まれるように思います。



●質問3 動画の手ぶれ

三井さんは、動画はデジタル一眼の動画機能を使って撮影されていると思うのですが、デジタル一眼で動画を撮ると手振れを抑えるのがとても難しいと思うのですが、手振れ対策などはどの様にされているのでしょうか?
作品を見るとほとんど手振れは気にならずとても見やすいですね。なにか工夫があるのでしょうか?


◆三井の答え

 三脚を立てないで、手持ちで動画を撮影しようとすると、どうしても画像はぶれます。これは防ぎようがないので、三脚を持参していない僕が撮った動画は必ずぶれているはずです。
 でも質問者の方は「ぶれが気にならない」とおっしゃっている。ぶれてはいても、あまりに気ならないレベルのぶれだということです。
 カメラを手ぶれさせないための基本は、静止画撮影と同じように両手でがっちりとホールドしてやること。ただ動画撮影の場合はファインダーを覗くのではなくて、後ろの液晶を見ながらのライブビュー撮影になるので、手ぶれしやすいのは確かです。でもとにかく基本は「がっちりとホールド」です。気合いです。
 それからレンズを広角側で使うと、相対的にぶれは目立たなくなります。望遠だとぶれが増幅されてしまうのです。



●質問4 レンズ選び

来年の二月に東南アジア、一ヶ月間の旅に一眼レフを持っていこうと思います。
使用機種はキヤノンの40Dでこの旅行に合わせてレンズを購入しようと考えていてEF17−40mmF4L、EF24−105mmF4L、EF-S17-55mmF2.8 この三つの中でどれを購入しようか悩んでいます。
三井さんはどれが一番適当だと思いますか?
ちなみにいまのところフルサイズへの移行はそこまで考えていません。


◆三井の答え

 40Dはいわゆる「APS-Cサイズ」のセンサーを持つ機種ですね。この機種には35mmのフルサイズセンサーを持つカメラに比べるとレンズの焦点距離が1.6倍になるという特徴があります。
 この点を踏まえると、この3本のレンズの中では「EF-S17-55mmF2.8」がいいように思います。広角も望遠もそつなくカバーできる焦点距離を持っているからです。僕自身はこのレンズを使ったことがないので詳しいことはわかりませんが、「EF-S」シリーズのレンズはAPS-Cサイズカメラに特化しているので、おそらく40Dにジャストフィットするのではないでしょうか。
 他に挙げられた「EF17−40mmF4L」「EF24−105mmF4L」はどちらも1.6倍すると「帯に短したすきに長し」なんですね。どちらも使いやすいレンズではありますが、基本的にはフルサイズ用だと思います。
 良い標準ズームレンズを一本持っていると、スナップ撮影が格段に楽になります。あれこれ考えずに、撮影だけに集中できるようになります。カメラとレンズと自分とが一体となれるような、そういう感覚が得られればもうこっちのものです。
 がんばっていい写真を撮ってきてください。




■ 旅の質問箱「動画編集ソフト」


たびそらの写真集紹介のページに使われているフォトムービーや、帰国報告会で使われているもの(参加したことがないのであくまで想像なのですが)はご自分で作成されているのでしょうか?
たびそらのは洗練されていてとっても素敵だなって思うのですが、フォトムービーって当然ですが素人とプロではっきり質が分かれると思うのです。
ちょっと調べてみると、フォトムービー作成用ソフトなどもあるようですが、三井さんは何を使われているのでしょうか?
またプロっぽく仕上げるコツのような物がもし有れば合わせて教えていただければ大変ありがたいです。


■ 三井の答え

 どうも。最近、動画の編集に凝っている三井です。
 新しいソフトの使い方を覚えるというのは最初はひどく面倒なのものですね。でも一度覚えてしまえば、今までできなかったことができるようになって、すごく楽しい。
 今、YouTubeにアップしている動画は、正直言って完成度はまだまだですが、静止画では伝わりにくかった旅の臨場感が伝わってくると好評です。バングラデシュの竹馬おじさんとかインドの人力観覧車とかのおもしろさは、動画を見てもらった方が断然伝わりますからね。

 ご質問の「フォトムービー」というのは、静止画をつなぎ合わせて作るムービーのことですね。これは以前から作っていました。例えばここにあるようなものです。

 フォトムービーを作るソフトはいろいろありますが、僕が使っているのは「FlashMaker」と「デジカメde!!ムービーシアター」です。
 どちらも操作が簡単なので、すぐに使うことができます。値段も手頃です。後述する「Premiere」でもフォトムービーを作ることができますが、こちらはあくまでもビデオ編集ソフトなので、フォトムービーに特化したソフトの方がわかりやすいと思います。

 デジタルビデオの編集には専門のソフトが必要です。
 僕はアドビの「Premiere Pro」というソフトを使っていますが、これは高価ですし、操作も簡単とは言えないので、初心者にはあまりお勧めできません。Premiereの廉価版に「Premiere Elements」というのがあるので、まずはそちらを試してみるのもいいかもしれません。「VideoStudio」というソフトも評判がいいようですね。

 またHDの高画質動画を編集するためには、高性能なパソコンも必要です。僕はこれを機にパソコンを6年ぶりに新調しました。Dellのデスクトップ「Studio Desktop」で、CPUはインテルの「Core2 Quad」タイプです。心臓部分が4つあるという高性能なパソコンです。といってもパソコン自体はさほど高くはありません。7万円ぐらいでした。

 余談ですが、この新しいパソコンを買って、古いパソコンからのデーターの移行を終えた途端、古いパソコンが壊れてしまいました。電源を入れても立ち上がらなくなってしまったのです。こんなことは6年間一度もなかったし、それがあまりにも出来過ぎたタイミングで起こったことにすごく驚きました。
 古いパソコンはちゃんと自分の「死期」を悟っていたのでしょうか? 野生の象のように?

 さて、「ムービーをプロっぽく仕上げるコツを知りたい」とのことですが、これは僕が教えてもらいたいぐらいです。プロの作品(それはテレビや映画で僕らが毎日目にしているわけですが)を見ていいところを盗むとか、教材を買ってきて覚えるとか、方法はいろいろとあるでしょうが、結局のところ自分自身の手で試行錯誤を続けていくしかないでしょうね。

 僕が心がけているのは、なるべくシンプルに作ろうということ。エフェクトと言われる効果は、隠し味程度に使った方がいいだろうと考えています。
 もちろん好みの問題もありますし、ビデオの題材によっても変わるのでしょうが、シンプルな構成の方がより内容に入っていきやすいのではないでしょうか。大切なのはコンテンツ、中身です。




■ 旅の質問箱「写真の選び方」
 

三井さんは写真をたくさん撮ると思いますが、その選別はどうやっているのでしょうか?
テーマを絞るなどなにかコツはありますでしょうか。
わたしのような素人ですと、どうも自分よがりな写真選びをしてしまいがちになり、また、選別がおっくうになってしまい、旅行写真を人に見てもらうと、だんだん見る人も嫌気がさしてきてしまうのです。
うまい選別の仕方などあれば教えてください。


■ 三井の答え


 写真の選別は、写真を撮るのと同じぐらい重要なものです。特にデジタルの時代になり、いくらでもシャッターが切れるようになったので、その膨大な写真の中からどれを選びどれを捨てるのかという判断が、今まで以上に写真家に求められているのです。

 以前に書いたかもしれませんが、僕は撮った写真をその日のうちにパソコンの画面でチェックして、失敗したもの、不要なものはその場で削除してしまいます。3分の2はこの時点で消えてしまいます。
 残った3分の1の中から自分が「いい」と感じる写真をピックアップして、別のフォルダーにコピーしておきます。それが全体の50分の1程度です。
 ホームページにアップロードしているのは、その中の半分程度でしょうか。つまり全体のわずか1%しか公開していないということです。この数字がもっと少ない人もいるでしょうし、もっと多い人もいるでしょうが、大事なのは「厳しい目で選ぶ」ということです。捨てるのをためらってはいけません。

 何千枚もの写真を一枚一枚チェックするためには時間もエネルギーも必要ですが、それをやり続けていると次第に自分なりの写真選びの基準ができあがってきます。そしてその基準が次に写真を撮影するときにフィードバックされるのです。「撮影」→「選別」→「公開」→「撮影」というループを繰り返すことによって、スキルは確実に磨かれていきます。

 写真を選ぶ際に「ひとりよがりの選び方になってしまう」とのことですが、それは換言すると「客観性の欠如」ということになるのだと思います。
 自分は面白いと思うのだが、他人にはその面白さがさっぱり伝わらない。そういうことって、写真に限らずよくありますね。すごくおしゃべりな人で、本人は「自分は面白い」って思っているんだけど、周りの人間は覚めた目で見ている。「自分の自慢話ばっかりしやがって」。そういう人っていませんか?

 それでは適切な批評眼、客観性を持つためにはどうすればいいのか。
 まず他人の写真を数多く見るということです。好きな写真、感銘を受けるような写真をたくさん見て、その作品のどこが優れているのかよく観察することです。

 それから、自分が撮った写真を多くの人に見てもらうことも大切です。ホームページをお持ちならそこにアップロードして、見た人の感想をもらう。あるいは写真展を開いてみる。
 と言っても写真展ってそう簡単に開けるものではないし、ホームページを見た人のほとんどがネガティブな意見をわざわざメールで送ったりはしません(たまにいますが、正直言ってちょっとヘンな人が多いです)。

 一番手っ取り早いのは、友人知人に見せることです。あまりに枚数が多いと飽きられるでしょうから、100枚程度にまとめて、それをスライドショーにして見てもらう。
 そのときの友人の反応をこっそりと横目でうかがうのです。「忌憚のないご意見を」なんて言っても、普通の日本人は他人をあからさまに傷つけるような言葉は避けますから、その人の表情の変化を読み取るのです。
 期待していたようなリアクションが得られずにがっかりすることもあるでしょうし、意外な写真に食いついてくることもあるでしょう。しかしそうやって一度他人の目を通して見ると、自分の写真がまた違った見え方をしてくるものなのです。

 ただ、客観性を過剰に持ちすぎるというのも考えものです。
 自分は面白いと感じるのに、他人はそう感じてくれない。このギャップは完全には解消されないし、また解消されるべきものでもありません。自分と他人との微妙なズレこそが写真を撮る際の個性なのだし、その個性(別の言い方をすれば「偏ったものの見方」)をなくしてしまえば、きっと「きれいだけれど何の面白みもない写真」を撮ることになるでしょう。

 写真を通して何を訴えたいのか。その本質的な部分を見失わないようにしたいものです。




■ 旅の質問箱「就職か写真の道か」


 はじめまして。こんにちは。大学生の※※と申します。今回メッセージを送ったのはちょっと相談したいことがあります。その相談というのは、4月から就職するのですがその就職に迷いがあるということです。

 つい最近まで、バックパッカーで10日間ほど東南アジアを一人でまわっていました。その東南アジアに行くきっかけとなったのは、三井さんの「たびそら」サイトをみてからでした。そこから、いろいろファンになり本を買って三井さんが撮る写真を見て勉強をしていました。自分も2、3年前から写真が好きでデジタル一眼レフを持ちちょこちょこ街を歩いています。今回の旅ももちろんのように一眼を持って行きました。そこで、写真の面白さを改めて再認識させられたと同時に旅の面白さも知りました。また、旅でいろいろな人との「一期一会」がとても楽しくてやみつきになりそうです。そこで、帰国してからかなりの迷いが生じています。なので、今の就職を続ける自信がないので、辞退しようか迷っています。
 そして、写真の道の仕事を選ぼうかと迷っています。もしくはフォトジャーナリストを目指してやろうかと思っています。正直、そう簡単になれるとは思っていません。でも、一度きりしかない人生で、普通の生活をして過ごす日々はつまらなさすぎます。

 ちなみに、写真は全くの素人です。就職するのはテレビのカメラマンの仕事です。
三井さんはもし自分の立場ならどうされますか?それと、写真一本で食っていくのは難しいでしょうか?わかりづらい文ですみません。教えてください。


■ 三井の答え

 実は最近、このようなメールを受け取ることが多くて、ちょっと困っているんです。どうしてかというと、なかなかうまく答えられないから。
 僕の中には二つの異なる(矛盾すると言ってもいいかもしれない)立場が同居していて、どちらの側に寄り添って考えるかによって、返答の内容が大きく変わってくるのです。違うパーソナリティーを持つ「僕A」と「僕B」がいる。そう考えてもらえばわかりやすいでしょうか。
 だから今回は、その「僕A」と「僕B」にそのまま登場してもらって、二人の掛け合いをそのまま相談の答えにしてみようと思うのです。ちょっとわかりにくいかもしれませんが、しばしお付き合いを。
 

僕A 「最近、こういう悩み相談を受けることって多くないか?」
僕B 「確かにそうだね。20歳前後の若い読者からメールをもらうことが増えた気がする。旅の質問、じゃなくて進路相談や人生相談が多くなった。進路指導の先生にでもなった気分だよ」
A 「はっきり言うけど、彼は写真家にはなれないよ。もちろんフォトジャーナリストにも」
B 「厳しいね」
A 「だってね、いくら就職を間近に控えてナーバスになっているからって、就職をやめるかどうかっていう重要な決断を、赤の他人にメールで相談して結論を出してもらおうって考えている時点で、人生を甘く見ているとしか言いようがないじゃないか。自分一人で悩み抜いて結論出すべきことだよ、これは。彼は一度きちんと就職して、仕事を通して社会の厳しさや達成感を知ったほうがいい。そのほうが彼のためだよ」
B 「旅に出るのは、しばらく仕事を続けてからでも遅くはないと?」
A 「そのとおり。彼の場合、自分の『夢』を語ることで、現実から『逃避』しようとしているだけなんだよ。就職したくはない。サラリーマンとして平凡な人生を送りたくはない。それで写真家という職業の良く見える部分だけを膨らませて、漠然とした憧れを抱いているんだ。『旅をするのが仕事だなんていいなぁ』って」
B 「でもさ、僕は君のようにバッサリとは言い切れないんだよ。なぜなら、僕ら自身の20代がまさにそうだったからさ。僕らが会社を辞めて旅に出たとき、その先の人生の明確なプランを描けていただろうか? ノー。まったく何も描けていなかった。逃避だと言われれば、まったくその通りだった。あのとき僕らはただ自分が置かれた状況を変えたかった。人生の先が見えてしまうことを恐れていたんだ。それで旅に出た」
A 「確かにね。今から振り返ってみれば、課長に辞表を出したときの僕らなんて、まったくの甘ちゃんだった。何も考えていないのと同じだった。本当に恥ずかしくなるよ」
B 「そうだろう? でも、そういう恥ずかしい勘違いというか、思い込みの激しさだけで会社を辞めてしまって、先の見込みがまったく見えない状態で、思い切って新しい人生をスタートさせたからこそ、今の僕らがあるんじゃないか。あのとき、濃い霧に隠されていたこの道の本当の険しさが見えていたら、僕らは会社を辞めていただろうか?」
A 「要するに、『見る前に飛んだ』から、飛べたってことかい?」
B 「そういうこと」
A 「でも、同じようなことを彼がやったとして、成功する確率はどれぐらいあるだろうか?」
B 「さぁ・・・難しいね。2割あるかないかってところじゃないか?」
A 「冗談言っちゃいけないよ。1%もないってのが本当のところだよ。僕らは運が良かったんだよ。そもそも『写真家になろう』と思っていたわけでもなかったじゃないか。成り行きでこうなっただけだよ。もちろん、写真を仕事にするための努力はしたし、一応の戦略はあった。でも結局のところ、ツイていたんだよ」
B 「僕自身はあまりそうは考えたくないんだけどね」
A 「でもそれが事実さ。ギャンブルだよ。そりゃ人生というのはある程度ギャンブルだけどね。でもそれを他人に勧められるかい? ほぼ落ちるってわかっている崖の前に立っている人間に、『さぁジャンプしろ』って言えるかい? 僕にはそんな無責任なことは言えない」
B 「でも、こうも考えることができるよ。彼は99%崖から落ちるだろう。写真家にはなれないだろう。でも、崖の下だって捨てたもんじゃないかもしれない。ポニョはいないだろうけど。新しい世界が開けるかもしれない。もし失敗したとしても、それで死ぬわけじゃないんだ。むしろその失敗をバネにして、より充実した人生を送れるようになるかもしれないじゃないか。何が成功で何が失敗かなんて、ずーっとあとになってみないとわからないものだよ。だから思い切って飛べばいい。あとのことはまたあとになって考えたらいいってね」
A 「君はいつでも楽観主義者なんだな」
B 「ああそうだよ。君は現実主義者で、僕は楽観主義者。そういう役割分担」
A 「僕は彼に厳しいことを言ったけど、夢を現実に変えることができる人間というのは、誰に何を言われてもやり抜こうっていう意志の力を持っているものだよ。彼がそれを持っているかどうかは、この文面だけではわからないけどね」
B 「成功のためには意思の力が不可欠だって?」
A 「そういうこと」
B 「でもさっき君は、僕らは運が良かっただけだって言ってたじゃないか?」
A 「まぁ運も必要だ。それに加えて、意思の力も努力も必要だ。まぁそれはいいじゃないか。いずれにしても決めるのは彼なんだ。自分で決めたことなら、飛んでも飛ばなくても、崖から落ちても落ちなくても、その結果に納得できるだろう。そうやって人生を自分自身で『ハンドルする』っていう実感が、今の彼にはもっとも必要なことなんじゃないかな」


 こうやって文字に書き出してみて自分の頭の中を整理するのって、僕にとってとても大切なことです。普段気づかないようなことに気づかされるから。僕の中には、非常に楽天的にポジティブに考える自分と、事態の推移を客観的に冷静に眺めている自分とがいる。それを改めて自覚しました。

 この「旅空日記」ではわりあいにポジティブな考えを述べることが多いのです。それは「旅人」の立場で書いているから。旅人というのは「明日はきっと良いことが起きるに違いない」と思って眠りに就くわけです。そうでもしないと、見ず知らずの土地を走り続けることなんてできない。自然と物事のよい面を見ようとするんです。「僕B」が優勢なのですね。
 でも日本に帰ってくると、冷静な自分が優勢になる。仕事のこと、生活のこと、お金のことを考えなくちゃいけない。

 「楽観」と「現実」の間でどうバランスを取っていくのか。それが僕の課題でもあり、たぶん質問者の課題でもあると思うのです。
 いずれにしても答えを出すのはあなたです。



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