「おにぃさん、これ買っていきな!」
市場で働くベトナム女性はとにかくパワフルで、気が強くて、抜け目がなかった。元値の5倍や10倍の値段を吹っ掛けてくることも当たり前だった。しかし、攻めるのはめっぽう強い彼女たちも、攻められるのは苦手らしく、僕がカメラを向けた途端、恥ずかしがって顔を背けてしまった。
「母さん、一枚撮ってもらいなよ」
「あたしはいいよ。この日本人はさっきから若いお前ばかり見ているじゃないか」
「もう、変なこと言わないでよ!」
たぶん、こんなやり取りが行われているんだろう。照れ隠しのために大きく開かれた口から、真っ白い歯がこぼれた。