ユーラシア一周 (2001年)

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スローな特急列車の中で

ベトナムの特急列車は実にのんびりとしたものだった。最高スピードでも時速7、80kmほどだし、頻繁に停車するからなかなか前に進まない。そのうえベトナム人の2倍の外国人料金が設定されているから、ほとんどの旅行者は鉄道を敬遠していた。お金があって時間がない旅行者は飛行機を使うし、お金はないが時間がある旅行者はバスを利用するからだ。  そんなスローな夜行列車のコンパートメントで同室になったのが、5歳の女の子ウェンと、彼女の父親だった。これから丸2日かけてホーチミン市まで行くのだという。  ウェンはお近づきのしるしにと、僕にチューインガムを一枚くれた。お返しにあげるものはないかとリュックを探ってみたけれど何もなかったので、メモ用紙で折り鶴を折ってあげることにした。 「カムオン(ありがとう)」  ウェンは出来上がったちょっと不格好な鶴を見て、はにかんで言った。ベトナムは美人が多いことで有名な国だけど、あと10年もすれば彼女もアオザイの似合うベトナム美人になることだろう。  ウェンは僕らに歌と踊りを披露してくれた。それに疲れると、父親の膝の上に頭を乗せて、眠そうに目をしばたたかせた。  寝台車のベッドという狭い空間にいるからなのか、二人は普通の父親と娘以上の強い絆で結びついているように見えた。娘が父親にべったりなのはわかるけれど、父親の方も決して邪険にすることなく、本当に愛おしそうな眼差しで、膝の上の我が子を見つめていた。  やがて娘が寝息を立て始めると、父親は薄い白磁の器を扱うみたいに、そっと頬にキスをした。

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