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  たびそら > 旅行記 > インド編(2015)


インドの街道をゆく

 バイクでインドを一周する旅も三度目になる。今回はオリッサ州からスタートしてまず南に下り、広大なインドを時計回りにぐるっと一周した。121日間で走った距離は16000キロ。使ったガソリンは291リットルだった。

 バイク目線で眺めるインドとはどのようなものか。それがよくわかる動画を用意したので、まずはこちらをご覧ください。


[動画]70ccの小型バイクでインドを一周した記録


 「なんだ、インドの道路って案外きれいだし、走りやすそうじゃないか」と思った方もいるだろう。インド名物の「酷道」はすっかり過去のものになったんだなぁ。そんな印象を受けるかもしれない。

 しかし、話はそう簡単ではない。これには撮る側(つまり僕のこと)の事情が絡んでいるからだ。実は動画がまともに撮影できたのは、インドでも比較的平坦でスムーズに走れる道に限られていたのだ。交通量が多すぎる危険な道や、路面状態の悪いガタガタ道では、そもそも動画撮影なんてできなかったのである。


このようなひどい道で動画撮影はできなかった


 動画の撮影はiPhoneを左手に持って行った。右手でハンドルを握り、アクセルとブレーキ操作を行いながら、左手一本でカメラを構えて撮ったわけだ。ご想像の通り、これは相当に危なっかしい方法だし、とても人にお勧めできるものではない。僕だって身の安全を第一に考えれば、こんなトリッキーなことはやりたくなかった。だからスマホをバイクに固定するための特別な金具を用意しておいたのである。ところが実際に使ってみると、この金具はまったく役に立たなかったのだ。スマホはしっかりと固定できたものの、バイクの振動を吸収する構造ではなかったために路面の微細な振動をすべて拾ってしまって、録画された動画は正視に耐えないブレブレの映像になってしまったのだ。


今回の旅の相棒。TVS-XL。小型バイクに荷物をくくりつけて、行き先を決めない旅に出た。


 実際のところ、インドの田舎道はまだまだひどいところが多い。大都市間を結ぶハイウェーはこの5年ほどで劇的に整備が進んだのだが、ローカル道に一歩入れば、未舗装のガタガタ道が待ち構えている。もともと僕の旅はハイウェーをかっ飛ばすのではく、田舎道をゆっくり進むスタイルだから、インドで急速に進むインフラ整備の恩恵はあまり受けられなかったのである。

 ビハール州はとりわけ道が悪かった。ビハールはインドでももっとも貧しい州のひとつで、インフラ整備も遅れている。 
 ここで紹介するのは、ビハール州東部とジャールカンド州北部を結ぶ国道80号線の光景である。一応国が責任を持って整備するはずの国道なのに、舗装はまったくされておらず、まるで火星のような荒れ果てた道が延々と続く。ごつごつした石ころと細かい砂、深く掘れた穴ぼこからなる酷道80号は、いくら頑張っても時速20キロ程度のスピードしか出せない。交通量も多く、大型トラックが走るたびに前が見えないほどの大量の砂埃が巻き上げられ、30分も走れば体は真っ白になってしまう。まさに「酷道」と呼ぶにふさわしいひどい道だった。


[動画]ビハール州東部とジャールカンド州北部を結ぶ国道80号線の光景


「なぜこんなに道がひどいんだ?」
 バイクが故障したときに立ち寄った村で、若者に訊ねてみた。
「政府が悪いんですよ」とアヌラグ君は眉間にしわを寄せて言った。「国道を整備するための予算は中央政府から出ているはず。でも何年待っても工事が行われる様子はありません。お金は地元の役人のポケットに入っているんでしょう」
 汚職はインドの経済発展を遅らせている大きな要因のひとつだと言われている。必要なところに必要なお金が届かない。予算が適切に使われていない。だから貧しい地域が貧しいままなのだ。それはビハール州の現状を見てもよくわかる。

 興味深いのは、役人の汚職を嫌っているはずのアヌラグ君が「将来は公務員になりたい」と言ったことだった。
「だってこの村には仕事なんて何もありませんからね。生きていくためには、公務員になるのが一番なんです。企業のように首を切られることもないし、安定していますから」
 一部の役人が受けている「役得」を非難する一方で、もし自分がその立場に立ったら甘い汁を吸うのに躊躇しない。それが多くのインド人の本音だとしたら、この国から汚職が一掃される日が来ることは永遠にないだろう。


新しい道路の建設も急ピッチで進んでいる



インドの道にはいろんなものが行き交う。これはアイスクリームを売る屋台を運ぶ男たち

薪を担いで曲がりくねった道を歩く女たち

プラスチックバケツを自転車で運ぶ行商人。まっすぐな街道の先に次の目的地が待っている。



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